がん晴るフェアin周南市

令和6年12月15日(日)に開催いたしました【がん晴るフェアin周南市 「知ってほしい『がん支援』:のこと!」】では、関連団体19団体の皆さまにご出店・ご協力をいただき、200名を超える皆さまにご参加いただきました。たくさんの温かいご支援と関心をいただき、心より感謝申し上げます。

講演会&クロストーク

「臨床宗教師から見た緩和ケアとは」
講師:臨床宗教師 松本宣隆氏(代理)

臨床宗教師の役割は、お医者さまの発想から生まれたものです。臨床宗教師は、宗教的な視点から「心(スピリチュアル)」のケアを行いますが、特定の行動を強いるのではなく、あくまでも傾聴を通じて、患者さまのお話を伺うことを基本としています。なお、中国地方臨床宗教師会は、様々な宗教や宗派で構成されており、布教や伝道を目的としていません。

患者さまが痛みから解放されると、新たな不安や苦しみが心に生まれることがあります。その際、私たちは患者さまのお話を伺いながら、共にその苦しみや悩みに寄り添います。傾聴とは、ただ悩みを聞くだけではありません。悩みを話してスッキリするというケースはごく稀ですが、むしろ、お話しされる中でご自身が何かに気づき、心境や考えの方向性に変化が生まれることがあります。たとえ身体の痛みが残っていても、心が少し和らぐことがあります。また、ときには世間話を楽しむことも、大切な時間です。

最後にお伝えしたいことは、緩和ケアを担うご家族や医療スタッフの皆さまへのケアの重要性です。これらの方々が和やかな気持ちでいられることが、より良い緩和ケアにつながると考えています。私たち臨床宗教師も、そのお手伝いができればと願っています。

「がん支援のための緩和ケア」
講師:徳山中央病院医師 山下武則

緩和ケアは、専門の緩和ケア外来を受診して初めて始まるものではありません。WHOの定義によると、「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者さんとそのご家族のQOL(生活の質)を、痛みや身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確に評価・対応することで、苦痛を予防し和らげるアプローチ」とされています。この定義には認知症も含まれますが、徳山中央病院では主にがん患者さんを対象としています。

緩和ケアには「基本的緩和ケア」と「専門的緩和ケア」の2種類があります。基本的緩和ケアはすべての医療従事者が提供するもので、当院では年に1回、緩和ケア研修会を実施しています。また、緩和ケアは特別な治療ではなく、緩和ケア外来を受診する前から始まっています。

たとえば、モルヒネには様々なタイプがありますが、副作用を過度に心配される方も多いです。私はむしろ、痛みを我慢するよりも、日常生活が送れるようになることを優先すべきと考えています。がん患者さんの約30%は初期段階から痛みを訴えられます。モルヒネを使用することは「最後の手段」ではなく、初期から使用して後に不要になるケースもあります。

緩和ケア内科の現状
当院の緩和ケア内科は2009年6月に開設され、現在は医師2名が外来診療と往診を行っています。昨年10月から今年9月までの1年間で、緩和ケア外来の受診者数は以下の通りです:

院内受診者:353名
外来通院中:196名
入院中:157名
これらの患者さんは、がん相談支援センターからの紹介など、様々なルートで緩和ケア外来を訪れています。残念ながら、受診された患者さんの多くは院内でお亡くなりになりますが、平均60日で、短い場合は2日、長い場合は260日となっています。

緩和ケア病棟について
当院の緩和ケア病棟では、医師2名、看護師19名、看護助手3名、理学療法士1名、管理栄養士1名、薬剤師1名が勤務しています。病室は全室個室で、無料13室、有料12室を備えています。

患者さんが緩和ケア病棟に入られる理由として最も多いのは、自宅での生活が困難になったり、現在の病床から退院が難しくなった場合です。これには病状の進行やマンパワーの問題などが関係しています。患者さんの多くが急に容態が悪化するため、当院ではご自宅に近い環境を整えた病室を提供しています。特殊浴槽や家族の控室がある部屋も設置しており、患者さんがご自宅と病院を行き来できるケースもあります。

緩和ケアは、患者さんの身体的苦痛だけでなく、全人的な苦しみを和らげることで生活の質を向上させるアプローチです。また、ご家族へのケアも重要な役割を果たしています。緩和ケアは決して緩和ケア内科だけが行う特別な治療ではなく、すべての医療従事者が携わるべき支援です。

クロストーク
登壇者:
山下武則氏(徳山中央病院 医師)
松本宣隆氏(臨床宗教師)
原田昌範氏(医師)
船崎美智子(遺族/NPO法人しゅうなんまちなか保健室)
小野薫(医師/ NPO法人しゅうなんまちなか保健室理事長)

船崎
夫が7年間闘病した間、お金や病気に関するさまざまな不安を抱えていました。今思うと、夫は「緩和=死」というイメージを持ち、ただ闘病するためだけの生活を送っていたように思います。私自身も仕事と病院の往復でつらい日々でした。もし早く臨床宗教師の方と出会えていれば、少しは違ったかもしれません。どのような場所やタイミングで臨床宗教師に出会えるのでしょうか?

松本氏:
臨床宗教師は、すべての問題を解決できるわけではありません。ただ、患者さんやご家族の心に寄り添い、心の整理を手伝うことを目的としています。その一方で、宗教の押し付けと思われないかという懸念もあり、課題は多いです。現状では「ここに行けば臨床宗教師と会える」という場はまだ整備されていません。今後、カフェなどの場を企画し、多くの方に臨床宗教師の存在を知っていただけるよう取り組んでいきたいと考えています。

山下氏:
患者さんは、医師には言えないけれど看護師には話せることも多くあります。同様に、医療スタッフには話せないけれど、臨床宗教師には話せるということもあるでしょう。このような機会を通じて、少しずつ緩和ケアの重要性を知っていただければと思います。

船崎
緩和ケアを受ける時期についてですが、夫は緩和ケアに行く予定だった1日前に亡くなりました。もっと早く緩和ケアを受けられていたらと思いますが、そのタイミングはどう見極めればいいのでしょうか?

山下氏:
緩和ケア内科への相談は、主治医の紹介だけでなく、がん相談支援センターや徳山中央病院の地域連携室に直接ご相談いただくことも可能です。当院にかかっていない方でも対応できますので、気軽にご相談ください。

船崎
セカンドオピニオンや病院を変えることに対して遠慮を感じる場合があります。その点についてアドバイスをいただけますか?

原田氏:
がんと診断されると、誰もが「何かの間違いではないか」と感じることがあると思います。そのような場合、私は信頼できる他の医師に相談し、その見解を患者さんに伝えることもあります。セカンドオピニオンは、患者さんが安心して治療を受けるための重要なプロセスです。遠慮せず、ぜひ相談してほしいと思います。

小野
医師や医療従事者は、どのように緩和ケアにつなげていけばよいでしょうか?

原田氏:
大病院であっても、地域との連携が非常に大切です。患者さんは終末期に心が大きく揺れるものです。その揺れを前提とし、私たち支援者が準備を整え、片道切符のような一方通行ではなく、患者さんやご家族と手をつないで支援を行うことが重要です。

船崎:
フォローする人がいなくても、在宅での生活は可能でしょうか?

原田氏:
ケースバイケースですが、限度があるのも事実です。例えば、私の祖母は一人暮らしを続けながら在宅で過ごせた例もあります。しかし、地域全体が病院のような支援体制を持つことが理想です。二人主治医制や、地域で連携する取り組みが進むことで、より多くの方が幸せに暮らせる可能性が広がるでしょう。

山下氏:
ご家族の負担も個々に異なります。退院直後に体調が悪化するケースもあり、ご家族の状況に合わせたサポートが必要です。

小野
医療スタッフや関係者が連携して、患者さん一人ひとりを支えるつながりを強化することが大切です。このようなイベントを通じて、周南市が患者さんの希望を叶えられる、暮らしやすいまちになっていけばと思います。

ブースの様子



 

体験談&クロストーク
テーマ:「ピアサポートの大切さを知る-当事者の語りから-」
がん患者と家族の会「にじいろ」 江中忠孝

私はこれまでに3度、がんの告知を受けました。最初の告知を受けたときには現実を受け入れられず、死を考えるほど思い詰めました。その時、手元にあったのは「入院のしおり」だけ。そんな中で帰宅すると、妻がこう言いました。

「なってしまったものは仕方がない。今からできることを二人で考えましょう。」

この言葉に救われ、考えを切り替えることができました。その後の生活では、休職や金銭面、地域や病院のことなどさまざまなストレスが重なりましたが、「がん患者サロン」に出会い、救われました。

その場にいるだけで得られる安心感、当事者同士だからこそ分かり合えること、他の方の経験談から学べること。そして、広範な情報が得られる点など、多くの利点がありました。そこで私は、自分の「誰も経験したくない嫌な経験」が、他の方の役に立つことを初めて実感しました。この思いから、「がん患者と家族の会」を立ち上げました。

私たちは現在、以下の3つの柱を軸に活動しています。

がん患者サロンの開催(月6回)
がん検診の重要性を伝える啓発活動
患者さんや家族へ必要な知識の提供
これからも、同じ経験を持つ仲間とともに、がんと向き合う人々の力になれるよう努めていきます。

対談
日本オストミー協会山口支部 事務局長 高下憲治

私は、初めて受けたがん検診で異常が見つかり、その後ストマ(人工肛門)を造設することになりました。それ以降、毎年がん検診を受けています。

特に伝えたいのは、健康診断とがん検診の違いです。多くの方が混同していますが、定期的ながん検診を受けることがとても重要です。私自身、がんと診断された後、手術までに時間があったため、多くの本を読みましたが、「なる前に読んでおけば良かった」と後悔しました。

現在、図書館で「がん情報ギフト」が広がっていますが、正しい情報を得ることはとても大切です。また、情報の整備が十分でない地域もあります。そのような場合、徳山中央病院などを頼れば、正確な情報が得られると思います。

オストメイトとして直面した課題
当事者になって特に困ったのは、以下のような問題です。

便漏れやパウチの脱落
特に臭いが気になります。他人には分からなくても自分だけが気になることもあります。
夏場のパウチ交換の頻度
暑い季節にはパウチが1日持たず、交換回数が増えてしまいます。
これらの問題を経験する中で、ストマーケアに関する情報の不足を痛感しました。ネット上にはすべての答えが載っているわけではなく、試行錯誤が必要です。その中で、オストミー協会の活動に出会い、先達たちの知識と取り組みに感銘を受けました。

現在、私はこの活動を引き継ぎ、より多くの方に知識を広め、サポートできるよう努めています。当事者だからこそ分かる経験を共有し、同じ課題に直面している方々を支えていきたいと考えています。

クロストーク
登壇者:
江中忠孝氏(がん患者と家族の会「にじいろ」)
高下憲治氏(日本オストミー協会山口支部 事務局長)
藤本育栄(ポポメリ-/ NPO法人しゅうなんまちなか保健室)

がんピアサポートとは
がんピアサポートは、体験を共有し、ともに考えることを目的とした活動です。がん患者やその家族が抱える精神的・身体的・経済的な不安を話すことで、気持ちが楽になり、病気に前向きに向き合うきっかけを作ります。

江中氏:
ピアとは、同じ体験をした仲間を指します。心の痛みは薬では治せません。同じ経験をした人が近くにいて、つらさを理解し合えることが支えになります。助け合い、つながり合うことが大切です。

高下氏:
私もパウチに関する悩みを抱えながら、ピアサポートに取り組んでいます。しかし以前は、相手の感情を先読みしたり、自分なりに言い換えて伝えることが多くありました。それがピアサポートの本質ではないことに気づき、反省しています。この気づきを基に、今後もピアサポート研修を継続していきたいと思います。

江中氏:
自分の未来を守るためにも、がん検診を受けていただきたいです。がんになりにくい生活を心がけつつ、定期的な検診で早期発見を目指しましょう。主人公は自分自身です。一人ひとりが自分の人生を大切にしてください。

高下氏:
がんになったことを受け入れるのは簡単ではありません。しかし、「がんになったのは仕方ない」と受け止めた上で、治すための努力を惜しまないことが大切です。そして、がんと診断されたときに慌てず、話を聞ける場所があることを知ってください。

江中氏:
がんは誰にでも起こり得る「自分ごと」です。その意識を持つことが重要です。

高下氏:
特に女性では、大腸がんが多い傾向があります。検便検査を避ける方もいるかもしれませんが、大切なご家族やお子さんのためにも、ぜひ検診を受けてください。

メッセージ
当事者の立場からお伝えしたいのは、がんを早期に見つけ、早期に治療することで、精神的・身体的・経済的な負担を軽減できるということです。本日の対談を通じて、私たちの想いが少しでも多くの方に伝われば幸いです。周囲にこうした活動があることを知っていただくだけでも、希望につながることがあると信じています。


このフェアを通じて、がん支援に関する情報や地域のつながりを深めることができました。これもひとえに皆さまのご協力のおかげです。本当にありがとうございました。

私たちは今後も、周南市のまちなかに「暮らしの保健室」をつくり、地域の皆さまが安心して相談や交流ができる場を目指して活動を続けてまいります。引き続き、温かいご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。これからも皆さまとともに、安心して暮らせる地域づくりに努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

2024年12月17日